『息もできない』

ほうぼうで半年くらい前から口コミになっているけど、
やっぱり書いておこう。

先月、下高井戸シネマで観た『息もできない』。
噂通りの心にズシンとくる作品だった。


どんづまりの人生で連鎖する不幸と暴力。
この渦から抜け出そうともがく人々が渇望する愛情。


「人間は結局のところ血の宿命からは逃れられない」
という、大きな絶望の中にある、
「しかし、未来への種は芽吹くかもしれない」
という、わずかな希望をストロングに描いた傑作。



『息もできない』は主演も務めたヤン・イクチュンの初監督長編作。


屋内シーンを自宅で撮り終えてから自宅を売り払って製作資金を用立てるなど、
彼の心意気がこもった純インデペンデント映画。


低予算故にリハなし、撮り直しなしの
ワンテイクで臨んだ演技は異常な緊張感。



どうしようもなく絶望的に最低な物語を貫く
「人間という存在そのもの」への肯定、
「今よりもよくなりたい」というあがきへの信任、
泥の中でも生き抜こうとする生命力への信頼。


人生への諦観と生命力への信頼とをくたくたに煮込みながら
「人間のしぶとさ」を描く『息もできない』には、
フェデリコ・ガルシーア・ロルカの『血の婚礼』、
マクシム・ゴーリキーの『どん底』などに通じる
骨太で原始的な力がある。


その根幹にあるものは、どんなに残酷な状況下でも
「生命力だけはなかかなものも」というタフな楽観。
その楽観こそが、神話のような救いを与えてくれる。