結婚指環だった血染めのグローヴ


あしたのジョー』。子供の頃からなにかにつけ読み返し、観返してきた。
特に好きなのはテレビアニメ版の「2」のほう。
ただ、なんでジョーは紀ちゃんを 振って西を結婚相手に薦めたのか、
なんでジョーは最後の血染めのグローヴを段平のおっちゃんではなく葉子に渡したのか、
腑に落ちてなかった。


そのもやもやは20代半ばを過ぎた頃、すっと理解できた。
紀ちゃんはいいお嫁さんにも、お母さんにもなれる。
でも、「真っ白は灰になるまで闘う」生き方は理解できないタイプの女の子。
そして憎たらしい葉子はそんな生き方を支える女性。
可憐な乙女心を押し殺して。



キング・オブ・キングスホセ・メンドーサが待つ世界戦直前の控え室。
室内は二人のみ。葉子は告げる。
「あなたは重度のパンチドランカー症状に冒されている」と。
「だからなんだってんだい」。


ドアを両手でふさぎ、ジョーをリングに行かせまいとする葉子。
あんなにも気丈だった葉子が叫ぶ。
「私のために行かないで!」。


反発し合ってきたジョーと葉子。
二人は一瞬だけ互いの愛を確認する。
葉子の肩に手をかけ、やさしくドアの横に彼女をどかせるジョー。
「どけよ、チャンピオンが待ってる」。


二人は互いの愛を交わしながら、
この闘いの後に幸せな二人の暮らしがないことも理解している。


15ラウンドの死闘が終わって、ジョーが葉子に渡した血染めのグローヴ。
それは二人の結婚指環だった。





段平のおっちゃんは、みてくれは悪いが野暮ではない。
ドヤ街の泪橋からジョーと共にやっと辿り着いた大舞台、
辛苦の果てに掴んだ大舞台でも
「そのグローヴはワシとジョーのものだ」、
そんなことは言う男ではない。


子供の頃は、二人の愛がまったく理解できなかった。
段平のおっちゃんに血染めのグローヴをあげるべきだと怒っていた。
紀ちゃんはいい女の子で、葉子は嫌なヤツだと思っていた。
でも、そういうことではなかった。


ジョーは家庭の温かさに憧れても、それを叶えることは出来ない。
それは「白い灰」とは真逆のことだから。
ジョーは紀ちゃんの愛には応えられない。
葉子の愛にも応えられない。
そのことを理解してジョーと共に闘おうとしたのが葉子だったのだ。


梶原一騎の原作にあったという最後の1ページ。
白木邸の中庭。木漏れ日。洗濯物を干す葉子。笑顔。振り返る葉子。
その視線の先には、椅子に腰掛ける廃人となったジョー。


ちばてつやの反対でこのページは描かれなかった。




あしたのジョー2 エンディングテーマ
「果てしなき闇の彼方に」